「空気」

 10月10日(土)双ギャラリーが吉祥寺に戻ってきた。オーナーの塚本豊子さんが古本屋だった店舗を見つけて衝動借り(?)したのだという。小金井の双ギャラリーと区別してSOH GALLERY K3。吉祥寺に双ギャラリーができて1度引っ越しているから、今度で3回目の開廊。吉祥寺で3回目だからK3だそうだ。画廊の施工はシンプルでエッジが利いたスッキリとした仕上がりだった。外壁には前の店の古びた「貸本」と書かれた、小さなライトボックス看板が残されていた。新装オープンの展覧会は双ギャラリーゆかりの「多田正美」展(-11/1)。というわけでオープニングパーティーの席で久々に多田正美氏にあった。
 多田氏は11月7日(土)にblanClass +nightでサウンド・エンカウンター(彼は自身のソロ・パフォーマンスをそう呼ぶ)をしていただく予定になっている。その約束はメールや電話でしていたから、最後に会ったのが2001年、かれこれ8年にもなる。彼との付き合いは私がBゼミの助手のころからで当時Bゼミの講師だった伊藤誠氏の紹介でゲストゼミに呼んだのだった。それが1993年。そういえばそのオープニングに伊藤氏(彼とも5年ぶり)もいて、二次会の李朝園では多田氏の饒舌な話を「あー」とか「すごいー」などと、一緒に合の手を入れながら、すっかりくつろいでしまった。
 多田氏は「お祭り」のスペシャリストで、各地の「お祭り」を録音、録画収集している。焼肉屋での話というのもネパールの長老たちが日の出に向かって秘密裏に行う儀式の話や、伊東の港町々で漁師たちがする海での禊の妙、その後の扇型に並んで座り身体に反響させながら響かせる舟唄の珍しさ、相模川より西の神奈川に伝わる馬鹿囃子の太鼓の騒がしさ、その名人の凄さなどなど止めどがない面白さだった。
 多田氏の饒舌さはさておき、展覧会は新作の写真作品だった。デジタルカメラの二重露光機能をつかって風景を重ね合わせたものに、透明メディウムをペイントしたものだった。それらの作品をみて、多田氏が捕らえて動かそうとしているものが「空気」なのだと、あらためて思った。もちろんそれは「音」の仕事でも顕著に現れていて、多田氏の「音」の仕事というのは、塊のように音楽として襲ってくるような種類のそれではなく、空気が繊細に織り成す機微というものを感じてしまう。
 11月7日にも多田氏の仕掛ける「空気」を見たり聴いたり、またその後のお話も楽しみたいと思っている。

小林晴夫