DVD

 去年、家の近くに99円のDVDレンタルができた。もはやハナからVHSはない、自動マシンの24時間営業。まだまだ品揃えはよくないが、ロードショーものをチェックするにはちょうどいい価格なので、去年の夏以来ちょくちょく利用している。
 お正月に少し時間ができたので、まとめてDVDをレンタルした。例のごとく大して選ぶわけでもなく適当に端から観ていたのだが、公開当時見落していた「ロッキー5」と「ロッキー・ザ・ファイナル」は良かった。「〜ファイナル」はシリーズのなかでも一番のできだったのではないだろうか? 元来の映画の素朴さがあるし、本当にフィラデルフィアの貧民街から這い上がってきたスタローンはロッキーを描いているときに一番真実味がある。
 しかし、特に印象に残ったのは「父親たちの星条旗」(2006)、「硫黄島からの手紙」(2006)、「告発のとき」(2007)の3本だった。始めの2本は2部作仕立ての映画なので当然だが、「告発のとき」がある意味で完結編といっても言い過ぎではないような気がしている。3本に共通しているのはクリント・イーストウッド(「告発のとき」でも全面協力をしている)ともう1人、ポール・ハギス。「父親たちの星条旗」では脚本、「硫黄島からの手紙」では製作総指揮と原案を手がけている。問題の「告発のとき」では監督、製作、原案、脚本とほとんどをこなしている。イーストウッドとは「ミリオンダラー・ベイビー」(2004)以来の名コンビでもある。
 「硫黄島」公開時に硫黄島戦から帰還した希有な元兵士のインタビューを観た。その年は特攻隊のドキュメンタリー映画が話題になっていたので、元特攻隊員と、対峙していた元米兵が60年ぶりに相対するというドキュメンタリーもあった。アメリカの老人が日本の老人に特攻時の心境を尋ねると、彼は唄を唄っていたと告白し、「うさぎ追いし彼の山、小鮒釣りし彼の川」と唄った。昨年は、NHKの戦争の証言シリーズを一通り観て、そのなんとも言えない当事者のリアリティーにあてられてしまい、何度も墜ちるような衝撃を覚えた。
 そのリアリティーに比べると「父親たちの星条旗」や「硫黄島からの手紙」は、どうにもホームドラマのように見えてしまう。決してできの悪い映画ではないのだが…。
 「告発のとき」も2003年にイラクから帰還した兵士たちが起こした、実際の事件をもとにつくられている。この事件も確か「60ミニッツ」で特集していたし、NHKでも類似のイラク帰還兵のPTSDを問題にした特集を組んでいた。その場合には、報道やドキュメンタリーの限界というか、舌足らずの印象を覚えたのを記憶している。映画の方が圧倒的なリアリティーを持っていた。しかし映画はやっぱり嘘である。観るものが感ずるべき「本当」はどちらにしても手元からスルリと逃げてしまう感じなのだ。
 「告発のとき」で失踪した兵士の父親が、息子から送られた1枚の写真を息子と行動を共にしていた同じ隊の青年に見せながら尋ねる。「これはなにを撮った写真なのだ?」と。写真は戦時下のイラクでは平凡な風景が写っているだけの写真だった。息子はしかし父に決定的な写真として託していた。
 これを観て思い出したのは南京事件の唯一の写真。それは南京の日本帝国陸軍の砦を遠くから撮っただけの写真だった。10年以上前に観たNHKのドキュメンタリーでその元従軍カメラマンは藤沢に存命だった。彼は砦のなかにいて無裁判による処刑を目撃したのだと証言した。恐ろしくなった彼はそのまま後ずさりし、安全だと確信したところでシャッターを切ったのだと言っていた。
 同じように息子にとって決定打になった事件はその写真の反対側、彼の背後にあった。結局、戦争なんてものはどうやったって写らないものなのかもしれない、と思わずにはいられない。


小林晴夫