low-tec あらため “_t(k y)t_”

 2010年5月22日(土)の+night、low-tec:高安利明/開発好明公開インタビューの際に「今回演奏した曲にはタイトルはありますか?」と、尋ねたところ「タイトルはない」とのこと。ついでにライブ自体のタイトルにした「ノイズ音響パフォーマンス」について質問をしたら、開発氏が「いつもはソフトノイズと勝手に言っている」と答えてくれた。これは言い得て妙で、コアなノイズサウンドと比較すると、なかなかにポップな心地よさのあるサウンドに仕上がっていた。
 会場からの質問に「10年前あたりはノイズもクロスオーバーして変化があったのに、最近は60年代や70年代の音に先祖帰りしているように思うのですが…。」という指摘があった。たしかにドラムンベースとかが流行っていたころにみられたようなクロスオーバーはひとしきり落ちついているのかもしれない。それというのもデジタル音源にシフトチェンジしてしまった現状では、もはや新しい音色というのは出尽くしてしまった感があり、そうなった今では、これまでに試されたことのあるどんな音源も等しく音源として復活をしているからかもしれない。
 ただlow-tecを、同じようなノイズミュージックにカテゴライズしてしまうのは、見方聞き方として面白くない。なぜならこのユニットの醍醐味は、開発好明の仕種を楽しむところにある。
 開発がなにかを仕掛けたときに結果として出てくる音を高安利明がディレーさせたりエフェクトさせたり、音として強調しつつ、あらかじめコンポーズした音源を組み合わせ、まとめあげるというのが2人のスタイルだ。
 4曲目に演奏した、まったくバイオリンを弾けない開発が手探りでバイオリンを弾く姿も美しかったが、極めつけは、3曲目の文字通りのマイクパフォーマンスだった。マイク(収音器)とそのシールドをたわませ、きしませ、こすり、うちつけ、およそマイクでできるほとんどの仕種を積み重ねていく。そのつきることのない仕種のボキャブラリーが可笑しくもあり、真に迫ってもいる。そしてその仕種が音(音楽)に変換されていくのだ。
 高安が美大に通っているころに、すでにノイズにはまっていたのに対して、開発が音に出会ったきっかけは、旅先でラジオつきウォークマンでラジオを聞きながら電子辞書をいじっていたときに、偶然それらが干渉しあって「ピコピコピ〜」という音を発したことだったという。
 彼の音との出会いは、彼の普段の美術作品にも通じているし、パフォーマンスをする真剣な姿を見ていたら、結果としてのインスタレーション作品とは違って、瞬発力と言おうか? 開発の脳みその種類が露骨に示されているように思えた。
 ところで、その日はlow-tecラストコンサートになった。というのはlow-tecの2人が、blanClassに向かう前に立ち寄った秋葉原モスバーガーで決まった話。理由は、本名がLow Tecというドイツ人のミュージシャンがネット上に映像配信をさかんにしているからだそうだ。まぁ本名にはかなわない。活動10年目を節目に、新しく決まったユニット名は“_t(k y)t_”(読み方はご自由に)。


こばやしはるお