佐々 瞬 [ある時間、彼らの話]

 「新・港村」出張blanClassも折返し地点。今週のゲストは佐々瞬!!
 blanClassでの佐々瞬の出演は今年に入ってからすでに2度、これで3度目になる。1度目の出演は「3.11」の直後、3月14日から19日までの展覧会とパフォーマンスだった。彼は3月12日に搬入をすませた後、そのショーをするべきなのか、私に電話で相談をしてきた。お互いの結論は予定通りに行うことだった。しかし、それからの1週間に、世の中で起こった変化というものは、周知の様に、津波に加え福島の原発の状況の悪化が少しずつ報じられ、朗らかに語れるような日々ではなかった。19日のパフォーマンスは、パフォーマンスと呼ぶにはナイーブな形だったかもしれない。彼は「ぶっちゃけて」みんなと、みんなが今考えていることを話す、というしごく素朴な形を選んだのだが、被災地から遠くはなれて理解を超えた状況を少しだけ共有する時間だったかもしれない。
 2度目の出演は8月27日のパーティーへの出演。自分も、協力者も、blanClassのスタッフも、お客さんも同じ赤いヒーローのマスクをかぶって前回と同じように、今考えていることを話すという、参加型のパフォーマンスを試みた。お客さんのひとりが「本音を語るならば素顔で話したい。マスクをかぶっているとまるで拉致されてきたみたいで、本音で語れなくなる」というような意味の発言で幕を閉じた。
 佐々が「3.11」以降に投げかけているモヤモヤとした問題は未だに解決していない。ただ、彼がそれまでにも作品で抱え、示そうとしている問題のなかにひとつのもの、ひとつの場、ひとつの時間をめぐって、ひとつには括りきれないような個別な価値観やリアリティーを考察する。というような姿勢が一貫していることは間違いないようだ。
 「群盲象をなでる」のことわざにもあるように、事件が大きければ大きいほど、真実は、実に多様な側面を持ち、そのどれもが本当と嘘の狭間でうごめいてしまうものなのだから、そもそも共有するものなどどこにもなく、コミュニケーションなど成立する隙間もないのが世の常だ。
 だから「個人はひとりひとりが自分で考え、それぞれに責任を持って生きれば良い。」というのが、これまでの日本人の目標だったのに違いない。
 どうも相変わらずそのことが目標に設定されているように思うが、その質に問題があるとしても、世代を問わず日本人は気がつかないうちに、すでにバラバラの価値観を持っているのではないだろうか? しかしそのバラバラも、妄想のように大きなひとつのものを前提にしてこその、バラバラ観のようにみえる。結局のところ人々の愚痴は「どうしてみんなは私と同じようにしないのだろう?」と聞こえるし、自分の意見は結局「みんな」を代表している錯覚から逃れていない。
 ひとびとが個別に考えるべきなのは、異論がないが、それは目標ではなく、前提としてあるべき姿なのだ。バラバラになってしまった私たちがなにをすべきなのかが問題なのだろう。
 正直、私も答えがない。当面すべきことは、なにかを共有するということではなくて、他人がなにを考えているのかを理解することなのだと思っている。
 長くなってしまったが、佐々瞬を短いスパンで3回も呼んでいるのは、彼のやろうとしていることが、バラバラのリアリティーの一歩先の問題提起に思えるからだ。アートワークとしても、簡単に解決するような仕事でもないのだろうが、少なくとも同じ時間を過ごしてみようと思う。


こばやしはるお



今週の出張blanClass↓
http://blanclass.com/japanese/


佐々 瞬 [ある時間、彼らの話]


「ドアが開くと、乗り込んできたのはホームレスのような男だった。
黒いコートのポケットに手を突っ込んで、小銭を取り出したが、
それと同時にポケットからは紙くずが落ちた。近くに座ってくれるな、
そう願ったが男はずりずりと車内を歩いて小石川の前を通り過ぎ、
彼の後ろの一人掛けの席に座った。
生乾きの衣類と獣の臭いが混じったような強烈な臭いする。
隠そうともせずサラリーマンが嫌そうな表情をしたがホームレスは気がつかなかった。
バスが走り出してからも小石川はホームレスを観察していた。」
(当日パフォーマンスに使用するテキストより抜粋)


日程:10月1日(土)
開演:19:00 開演:19:30
一般:1,200円/学生:1,000円
会場:新・港村スクール校舎(Aゾーン)/新港ピア:横浜市中区新港2-5


佐々 瞬 Shun SASA
1986年生まれ。東京で活動中。2009 東京造形大学美術学科絵画専攻卒業。個展に、2009年「それについて」(TAKE NINAGAWA・東京)。グループ展に、2009年「 東京造形大学卒業制作展-ZOKEI展」(東京造形大学・東京)、「No Man’s Land」(在日フランス大使館・東京)、2010年「camaboco」(東京造形大学・東京)などがある。
http://www.sasashun.com/