公開制作/ワークショップ[学校が編んでいる]イントロダクション|うつくしい雪(河村美雪)

blanClassでの公開制作が直前になり、このプロジェクトについて公開できる内容が少しづつ定まってきたので、イントロダクションを書いてみます。(文末に、blanClassで実際にやることが書いてあります。)



島 (アニメーション 2015)


2014年の秋に、ひとりの「保健室の先生」への取材が始まった。彼女(Sさん)は、「保健室の先生は学校文化のなかの移民である」と述べている。この言い回しが事実として正しいかどうかではなく、「私は移民である」という喩えを使って自身の置かれている状況を考えようとする、その当事者の眼差しに興味を持った。


取材を始めてみると、予想を超えて保健室の先生の複雑な立場と歴史が語られたが、同時に、「語られることのない生徒の痛み」がSさんの言葉の奥には隠されているようなところがあった。当然ながら、保健室において、より切実な当事者は養護教諭ではなく生徒であり、彼女がこの他者の切実な話を具体的にわたしに語って聞かせることはなかった。わたしは、時折その柵を越えたくなるのだが、彼女らは「アート」を生きているわけではないので足止めをくらい、そして助けられてきた。


二回目の取材の中で、わたしからのある質問に回答する形でSさんが説明してくれたのが「竹ザル」の構造だ。これは、彼女が職務上の必要にかられて開発した「こころ」だという。



わたしは、Sさんが描いた図面を持って、京都の竹細工職人小倉智恵美さんに会いに行った。小倉さんのことは、たまたま目にしたネット上の情報でそのお仕事に出会った。そして、小倉さんがつくる繊細な竹細工の技術がSさんの「竹ザル」には必要だと確信して、半ば飛びこむように工房を訪ねた。


その年の同じ月に、わたしは、Sさんでも小倉さんでもない女性にこの竹ザルの使い方を考案してもらい、翌年の2015年、出来上がった「竹ザル」を東京とオスロノルウェー)のふたりの女性に実際に使ってもらった。



これが、2014年から現在にいたるまでの「学校が編んでいる(仮)」という作品の部分的な経緯である。タイトルはおそらく変わるだろうと思っている。というのも、これはどうやらひとつの作品に収まることはなくて、わたしはあの取材以降、絵を描いたりオブジェを作ったりという、普段はしないような寄り道を延々としている。どうやら「竹ザル」から派生したものが大量にバラバラと存在し、それらを眺めることができるようになるまで、この「比喩としての竹ザル」がなんなのか?という問いが自分から離れそうにない。



さて、経緯説明が長くなりました。

この週末に横浜のblanClassに数日ほど引きこもって、「学校が編んでいる(仮)」を先に進めることにしました。上記の経緯の後半部分である「竹ザルを使ってみる」、この先をやろうという計画です。具体的には、ワークショップでは集団(擬似コミュニティ)のなかで個人が拾っている情報に焦点をあてて、その情報からどのようにして人が自分の心のなかに、「私が生きるための世界像」を作り上げていくのか? その世界像を外の実世界にフィードバックさせたりさせなかったりするのか? を考えてみたいと思っています。


そのひとつのヒントとして、作られた世界を生きることに日々向き合う俳優という仕事をしている松田弘子さんをゲストに迎えて協働していきます。また、ビデオカメラや映像ミキサー、ライブ放映といったメディアを使うことで、「私が内面に構築する世界像」の出現を実験してみようとおもいます。


今回の機材は、なるべく個人が普通に手にできる物と数の範囲で用意をしています。過去数年、わたしはセンサーを使ったシステムをプログラミングしてもらうことが多かったのですが、今回は機材知識や予算の薄いアーティストが自分ひとりでも動かせる範囲を目指しています。興味のある方は、制作のための小さなキャビンの可能性を一緒に探りましょう。制作する過程で自分のためにはどういうシステムが必要なのか? そんなことに興味がある人は、それだけを目当てにきてもらっても問題ありません。メディアの組み合わせを考えてセットアップすることは、わたしにとっては人間の心を見る助けになる時があります。


かわむらみゆき(うつくしい雪)


■タイムスケジュール


16日(土)18:30-20:30 ワークショップ1
17日(日)18:30-20:30 ワークショップ2
料金:1回 1,500円/2回通し 2,500円(要予約)
「移民と名乗る人」と外の世界の関係のゲームを作り、それを実施してみる。ゲームの実施と振り返りの過程で、機材やインタビューを入れて試してみる。これらは、当日のメンバーで決めます。

                            • -

〈予約方法〉以下の内容でイベント前日までに送信ください。こちらからの返信を持って予約完了とさせていただきます。なお定員に達した場合などお断りすることもございますので、あらかじめご了承ください。
〈メールアドレス〉
info@blanclass.com
〈タイトル〉うつくしい雪ワークショップ予約〈本文〉1)日にち 2)氏名 3)住所 4)メールアドレス 5)参加人数




18日(月・祝)13:00〜 公開制作(入退場可)18:00-20:00頃 公開通し稽古+フィードバックパーティー
公開制作:日中の見学のみ 500円/公開通し稽古+フィードバック1,800円(ワンドリンク+α)
前二日間のワークショップで出たことを含め、その時点で見せられるものを俳優さんと一緒にアウトプットします。その後、みなさんと一緒に軽食をいただきながら、お話しましょう。お話は、感想でもいいし、質問でもいいし、「移民と名乗りたくなった時のこと」でもいいのです。


※また、お子様とご一緒いご来場いただくことは問題ありません(お子様にとっておもしろいことは少ないと思われますが)。その時々の内容によって静かにしておいたほうがよさそうだけれど、どうもそうではない状況が生まれる場合はご自身で判断してお散歩なりしていただければ助かるのかもしれませんが、わたしもその時になってみないとよくわかりません。機材の管理には、親御さんと主催側でそれとなくお互いに注意しましょう。



■機材(以下から組み合わせる。変更の可能性あり)

ハンディカム 2
ウェアラブルカメラ
マイク(ピンマイクかバイノーラル)1
音声レコーダー 1
映像スイッチャー・ミキサー 1
Mac 1~3
必要に応じてiPhoneとレンズ



機材フロー


ゲスト:松田弘子(俳優)

                            • -

うつくしい雪(河村 美雪) DULCET SNOW

  • 「いま進行中の対話が作り出している視点」に関心を寄せ、個の心が外界との関係によって変容していく様を、映像・言語・人工生命など多様なメディアを使って制作。2016年、名義を『うつくしい雪』(過去のカンパニー名)に統一した。

http://www.dulcetsnow.com
音の海:  http://otonoumi.net/
移民する本:  http://migratingbooks.strikingly.com/

                            • -

松田 弘子 Hiroko MATSUDA

  • 俳優・翻訳者。青年団で現代口語演劇(『ニッポン・サポート・センター』『ヤルタ会談』『東京ノート』)、あなざ事情団で観客参加型演劇(『三人姉妹』『みんなのハムレット』)を実践。近年踊る気満々(『そろそろソロを』2015)。