熊野#6+

 火は点いた。しかし手放しに喜んでもいられない。這い上がってきたあの階段を今度は降りなくては。雨が降り続いていて、足場は極端に良くない。行列の動くスピードはゆっくりになり、立ち止まるようになり、ついには動かなくなってしまった。動けずにいると、寒さで気力も萎えてくる。どこかから「わっしょい」という掛け声が起こってきて天地に広がり、もう一度人々の足を動かしていった。

 眼下の新宮の町に向かって点々と灯が続いている。なかば吸い込まれるように歩いていると、いつの間にか神社の入口に到着していた。参道では老若の女たちが戻ってくる男たちを待っていた。こちらは誰に待たれているわけでもないが、少しこそばゆいような感じをお裾分けしてもらいつつ、その花道を通り抜ける。どこかの家から味噌汁の匂い。お腹が空いていたのに初めて気が付いた。(おわり)

みきよしかず

※直近に投稿された波多野康介の写真「熊野#6」と連動しています↓