石を見ること

 渡邊聖子の展示には、写真・テキスト・ガラス・・・様々な要素が反映されている。そうでありながら、必然に満ちたシンプルな空間に見えてしまうから不思議でもある。2010年2月に企画ギャラリー・明るい部屋で発表された「否定」では、石を撮った写真とテキストが並列して床に並べられていた。それらの上には、ぴったりの大きさのガラスが被せられて、開け放たれた窓から入る鋭角な光に照らされていた。
 7枚の石の写真、否定に否定を重ねていく言葉。一見不可解な彼女の作品から私が感じたのは、昔、分厚い写真集で見た月の石のように、それが頭の中で一瞬輝き、次の瞬間には元の茶色い塊に戻ってしまう、あの感覚だ。

 石の写真を見る。学者や好事家でもない限りそれを、いわゆる石だと認識するだろう。そこには人類の歴史上・個人の経験上、既に合意が存在している。無意識の合意の間に彼女は透明な鉱物をそっと挿入する。それは視覚の上での半透膜であり、意味の上での同語反復であるかもしれない。像は分解され多重化される中で言葉のように何事かを呟き始める。

 写っているそれは、それではないこと。
 写っているそれが、それらしく見えること。

 被写体やマテリアルのように、見えてはいるが見えていないものを通して、彼女は写真への静かな問いを繰り返しているように思える。


blanClass-Live Art
渡邊 聖子 [石の娘/娘の石]
日程:2012年2月18日(土)
開場:18:00
開演:19:30
入場料:1,000円/学生800円
会場:blanClass