2.9[土]|吉本伊織[道路]

 最近、画業と言葉を行ったり来たりしながら、ある種の屈折を表現し続けてきた吉本が、昨年夏に引き続き、絵画を描く、その根拠に迫る。
 吉本伊織は巷談調のパフォーマンス、朗読劇や寸劇など、主に言葉をつかって表現をしてきた。それが数年前、いつのまにか絵を描きはじめていた。ところがその様子は、画家を演じているようにも見えて、本人もあわせた、一種のパフォーマンスのように感じてしまった。だからなのか、一度描いた絵を、舞台装置のように展示した前で、田舎で展覧会を終え、愚痴を言いながら搬出作業に没頭するという設定の寸劇をブランクラスで演じたときには、なるほど、彼の絵は虚構の設定のなかで成立する類の絵なのではないかと思ったりした。
 ところが、本人と話してみると、そうでもないらしい。紆余曲折した末に辿りついたのが、絵画だったと言うのだ。
 彼の描く絵はスナップ写真をモチーフに墨汁やパールホワイトをつかって、モノクロームに描いているものが多い。そのなかで、海の水平線を描いたものがある。その絵はほかの彼の絵とは異なって、具象と抽象の間の存在感を備えている。それはまだほの暗い海の情景にある、沈み込んだ闇と微かな光に反射する海面が、墨汁とパールの持っている特質と合致しているせいもあって、ほとんど描写していないのに風景にも、塗り分けにも見える不思議な経験をつくりだしている。
 前回は、自身が絵を描く根拠を、画家の根拠に求め、諏訪直樹をめぐる考察を試みた。今回は、吉本が描いて生きた、水平線のシリーズのプロセスにさかのぼって拡張を試みる。というのは、映像をつかってのアプローチなのだが、いままでに試したことのないプロセスを間に加えることで、面白いと感じているのに、絵画にはならないと思って切り捨ててきたはずのものを拾いあげ、その絵を描いた動機を見つめ直す。
 いつも以上に自覚的な吉本伊織の新境地に乞うご期待!!!


こばやしはるお

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映像を使ったパフォーマンス
吉本伊織[道路]


相模湾沿いの道路。夜明け前にその道路を走行。助手席にカメラを固定し、録画。2/9にはその映像対して、アプローチするライブをします。


日程:2月9日(土)
開場:18:00 開演:19:30
一般:1,200円/学生:1,000円

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吉本 伊織 Iori YOSHIMOTO

  • 1978年富山県生まれ。2001年BゼミLearning system 理論専修生。2002年「海の向こうより山の向こう展」(旧西塩田小学校・長野県)企画運営。2010年「神奈川県美術展」神奈川県立近代美術館賞受賞。個展・パフォーマンスに、「すき景」(ココラボラトリー・秋田・2009)、「キレギレ」(blanClass・2010)、「佳景」(ココラボラトリー・秋田・2011)、「鉛と墨」(nitehi works・神奈川県・2012)、「アウフヘーベンー絶句から絶景ー」(blanClass・2012)、「ケガレトヒジリ」(Tur als Holz von neben Strand・2012) など。ほかに、野外展「Art Plant」(狭山丘陵・東京・2009,2011)BankARTスタジオインアーティスト2010参加。「めまい/たちくらみ」(森下スタジオ・東京・2011)舞台美術、「どんな手段をつかってもいいから風景をのこそうワークショップ」(ASIGARAアートフィスティバルにて・2012)などがある。