井出 賢嗣 [台湾慕情エトセトラ、私も恋に悩むときがあるのです]

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6月19日(土)
井出 賢嗣 [台湾慕情エトセトラ、私も恋に悩むときがあるのです]
開場:18:00 開演:19:30
入場料:一般/1,000円 学生/800円

真夜中に一人で歩いていました、いつも何かが起きるんじゃないかと思って思わず期待を胸に散歩してしまうんです。24時間営業のマクドナルドやコンビニの眩しい光、静まった闇に潜む住宅街、そこを颯爽と通り過ぎるトラックやスポーツカー。自然という言葉がありのままに通り過ぎるという意味を含むなら、僕は不自然の固まりです。ロマンティックなことばっかり考えてむりやり生きている阿呆でしょう。ほんとうは深夜には何も見つからないって知ってるんです、でも何かみたことにして生きているんです。マジで泣けるわ。


 井出賢嗣は、台北市横浜市アーティスト交流プログラムで今年の春3ヶ月ほど台北のTAVで滞在制作をしていた。実は私もその審査員の1人として審査にあったていた。2005年と2006年にBankArt 1929で行なった「Ongoing」展でも作品を見ていたのだが、審査の折、ポートフォリオを通してあらためて彼の作品を認識した。
 井出の作品の多くは、3Dペインティングとも「書き割り」ともとれる、インスタレーション(立体)作品を展開している。それがいかにも素朴なタッチで描かれていて、世界中にあるナイーブ・ペインティングに、よく見られる特徴と共通する特徴を備えている。特徴とは、切り取られた形態に塗られた色面が鈍い、グライッシュな色味であること、その上多くは、グラデーションで処理されている点。特に緑色やピンクのグラデーションが独特な雰囲気を出している。なぜ、彼がそういうタッチを好んで選択しているのか? そのことが妙に気になり、目を止めてしまった。
 二次審査という段階になって、いくつかのドローイングと台北行きのプロジェクトを示すためにまとめたイメージが提出された。そのなかに、金子光晴がヨーロッパ旅行中に旅費を稼ぐために描いたという春画が混ざっていた。これまたナイーブなタッチ。台北でのプランにも地元の絵画教室に通って、プロの美術家ではない人々のローカリティーというものを味わってみたいというものがあり、これはどうも相当一貫しているなと、直感した。
 審査のときも、台北から帰ってきてからも、同様の質問、「ナイーブなタッチの理由」を彼に聞いてみたのだが、本人はそれほど意識していないと言う。しかし、台湾の土着の文化に触れたりしたときに、その土着性が、マンネリ化していることに懐疑的な感想を持っていたり、2種類の絵画教室で出会った趣味と仕事の狭間に起こる表現の乖離というか不可思議さをしきりに話してくれた。それであらためて感じたことは、この人はやっぱり表現や制作の原初的な衝動に対して強い関心があるということだった。
 さて今週の土曜日の内容についてだが、詳しい内容は蓋を開けてみないとわからない。でも恋する井出賢嗣は「台子」にラブレターを出し続けている。彼は旅の始めに、台湾という島を「台子」と名付け、恋し続けると決心したのだそうだ。そこから繰り出される物語りとは? 「台子に思いを告げ続ける」井出賢嗣に注目です。


こばやしはるお