4月2日《ぎおんざくらーそれからーオートネオン》について/岡田貞子

こんにちは。


土曜日は、ありがとうございました。
地震以降は気持ちが落ち着かず、大阪に戻ったりもしていたので、「私は4月2日にパフォーマンスをやることができるのか?」という想いがありました。
実際、地震前に計画していたことを変更したりもして、打ち合わせや練習も不十分な状態で、でも「3人いればなんとかなる」という楽観的な想いもありつつ、当日にのぞみました。
今回、この時期に3人でコラボレーションをやれたのは良かったです。
お客さんも20人も来てくださり、いろいろと意見も頂いて、考えることもあり、
なので、私も楽しめたし、半ば強引にいつものスタンスを取り戻せたというか、上手く言えませんが、正直、とても助かりました。


下記に今回の感想と文章を書いておきます。
同じことを、自分のブログにも載せます↓
http://d.hatena.ne.jp/ki9te50/


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4月2日《ぎおんざくらーそれからーオートネオン》について/岡田貞子 



 今回の《ぎおんざくらーそれからーオートネオン》に関しては、オトトコトバコさんが「オト」、浅岡さんが「ネ」、私が「オン」であると言いましたが、とにかく3種類の『音』の有り様が、うまく混ざったら面白いんじゃないかと。それに、この3人のコラボレーションは、たぶん、予想外なことが一杯で面白いだろうと。
そういう意味では、割と上手くいったんじゃないかなと思います。
ただ、出し物としては、不安定な部分が多すぎたな。というのが反省点です。
たぶんですが、お客さんは、狐につままれたような気分になったんじゃないかと。
それはそれで狙いでもあるのですが、もう少し演出や衣装なども詰めれていれば、桜の情景を強く感じさせることが出来たんじゃないかな・・・と。
それと、せっかく3人のコラボレーションだったので、文章も私1人が作らなくてもよかったなとか、朗読のスタイルにこだわらなくても良かったなとか思っています。
まぁ、その辺は、徐々に次回から考えようとか思っています。


 

 それから、私自身のことですが、改めて、自分の作った文章を発表するのに、何故、[物語(言葉)を読む]という方法を取っているのかを整理してみました。
 

 [物語を演じる・物語を話す]と[物語を読む(朗読)]という行為は一見似ていますが、 違う立ち位置の物語媒体だなと思います。
 [物語を演じる・物語を話す]という行為は、演者は物語を覚えて演じる。もしくは即興する。観客はその演者の行為を見聞きする。
あたかも「今、この時点で、演者自身が語っている物語です。」という同じ物語の時間軸を共有するための前提があります。(もちろん、例外もありますが。)
 [物語を読む]という行為は、書いてある文章(物語)がある。演者は文章(物語)を読む。観客はその演者が読んでいる物語を聞く。
これには、「書いてある文章(物語)がある」時点で「今、演者自身が語っている物語じゃないですよ。」という作られた物語との時間軸がズレる物理的なことがあります。
 物語媒体としては「観客に既にある物語を聞かせる」ための行為であって、「読んでいる行為を見せる」は含まれてないんじゃないかと。 
にも関わらず、観客は朗読者をじっと見ています。それは、「物語を聞く」ということと一致しない部分で見ているように思います。

 そして、その一致しない「読んでいる行為」を上手く視覚的に取り込み、それを揺さぶることができれば、[物語の情景] を作り出せるんじゃないか?
[物語を書く]ということと、[空間に言葉(音・声)を出すこと・身体の動きの理由]とが、自分なりに一致させれるんじゃないか?と。
それが、私の現在の[物語(言葉)を読む]をいろいろ試してみるというパフォーマンスをやっている訳です。


2011.4.5
おかだていこ


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《ぎおんざくらーそれからーオートネオン》


    • さくさくらの下の サクサクラの上を 散る桜が流れて行く さくさくらの上を サクサクラの下で

一昨日、女と御曹司は大音響と共に爆発した温室を訪れる。男は大人しい乙女のお供をして、落とし穴にハマる。
姉さんは弟と温泉郷御柱の上で大人しく寝ていた雄鶏の寝言を聞く。
「ねぇねぇ、ネオンサインのライオンと猫とコウノトリは、お友達の塒で、そうとは知らずにお望み通りにお伽の国へ・・・」



じじ、じじじじじ、じじっ、じじじ・・・・
「じじ、じじじじじ、じじっ、じじじ・・・・、花咲かじょうろ、上段に構え、上空に水を。」
「じじ、じじじじじ、じじっ、じじじ・・・・、花粉をじょうろに溜めて熟成させとく。」
「じじ、じじじじじ、じじっ、じじじ・・・・、じょうろじょうろ、川に写す。」
川に、水と花粉と花びらを流すと黒い木が出来る。
「長年こうしてきました。じょうろを使って水を撒くことを」
と、顔に溝が幾筋もある水守の男が話す。
「こういう具合に、全体的に湿らせるんです。掛けすぎてはダメです。色が薄すまりすぎては香りが出ませんから。かといって、水が足りないのもダメです。匂いがキツいと虫がヘバリツイてしまいますから。私も若い頃はそういった失敗をしたものです。今年の出来はどうでしょう。上手く水を撒いたからって、上手く行くとは限らないのです。ええ、もちろん、上手く水が撒けなければ台無しなのです。しかし、対外は上手く出来たといえるでしょう。ええ、たとえ多少可笑しくたって、本当はそんなことに気がつく人なんか居ないのです。とても重要なことなのですけども。いえ、私はそう聞かされて育ちましたからね。細心の注意を払うようにと。ねぇ、知ってますかね。先代は立派な方でした。本棚にいらしゃるのですよ。ねぇ、お気づきになりませんでしたか?そうですよ。意外なことなんか、案外そこにあると気付きもせずにあるんですよ。」
そう言って、水守の男は、川に水を撒く。
撒かれた水は、流れる水と混ざるのか混ざらないのかと、桜子は聞きたかったのだけど、スージーは水守に会釈をすると歩き出した。
御曹司と大人しい乙女の行き先は分からなかった。


冷たい雨が降りしきる。
途切れ途切れに届く古くなったオートネオンサインの蛍光音波に揺られ、乾いた喉を鳴らす。
ある春(はる)の夜(よる)のたんなる段落にすぎない階段を3段飛ばしに降りる荒技をひとりで楽しんだら、どうなろうか。
舞う花びらを吹く風の出所は上流にある。
そこここにもある。
黒い丸の中の白い円、白いマルの中の紅いまる、紅い○の中の黒くのびる枝は、こうなってしまいましたと言うことで。


ほねさくら、さほねくら、ねほくらくらさくな。私は1年で準備をする。春のお祭りは盛大に行われる。ぼんぼり提灯ぶら下げて、ゆらゆらと上がる甘酒をお飲みなさい。
コロコロと白い骨が転がりながら丸くなる。『すこし裂け目を入れてっ!!』と大声で叫んだのは弟の方。薄くスライスした欠片を親指にのせて人差し指の爪でちょっと印を入れます。それを5枚ご用意下さい。爪楊枝の先に蜜をつけて粉が付くように願います。


ざぶざぶ、すいすい、たぷたぷ、3匹の黒ネズミが川を泳いでくる。
「ざぶざぶ、まいったな、あの大きなネズミに会わなきゃなんて」
「すいすい、まいったな、あの毛むくじゃらのネズミに会わなきゃなんて」
「たぷたぷ、まいったな、あの目が黄色で華の尖った濁声のネズミに会わなきゃなんて」
ざぶざぶ、すいすい、たぷたぷ、川岸を目指して、小さい動物が短い手足を懸命に動かし、流れに逆らいながら泳ぐ。
「あいつは、大人しい乙女から、広場の敷物を手に入れたんだ」
「あいつは、そこにあった甘酒やいなり寿司も手に入れたんだ」
「あいつは、あの男の振りをしてやり込めたんだ」
ざぶざぶ、すいすい、たぷたぷ、黒ネズミの目が銀色に光る。
3匹同時に川岸の石に手をかけて地面にあがる。3匹の黒ネズミは1匹のオオカミになる。
『さて、不味そうなネズミをどうしてやるかな』

その頃、毛長鼻長大ネズミは、木のウロに住む気の弱いデカ耳馬鹿ネズミに相談をしている。
「姉さん、弟、ヒアリング、OK。あんたダメダメ、皆、知る知るよ」
「春雷にビックリして、落ちた穴にあの2人が居たんだ。雄鶏野郎が私に気づかなかったんだ」
「でもでも、わくわく、ふわふわ、ユーガッタ、ふわふわ。ピンクいろ。ふわふわユーだ」
デカ耳馬鹿ネズミはくるくる回りながらドアを閉める。残された毛長鼻長大ネズミはズブ濡れだ。
「もういいかい」
「まぁだだよ」
「もういいかい」
「まぁだだよ」
「もういいかい」
毛長鼻長大ネズミは呟く。
「まだだよ」
ドアが開いてオオカミが現れる。
「もう待てないね、観念しなよ」
オオカミが、毛長鼻長大ネズミの皮を剥くと、大量の紅い花粉になる。
川に流そう、水に流そう。
『コイツのおかげで今年は少し咲くのが遅れるかも知れないが、1年の準備は無駄にならない』
姉さんは弟と温泉郷御柱の上で大人しくしていた寝ていた雄鶏の寝言を聞く。
「ねぇねぇ、ネオンサインのライオンと猫とコウノトリは、お友達の塒(ねぐら)で、そうとは知らずにお望み通りにお伽の国へ・・・。」


一昨日、女と御曹司は大音響と共に爆発した温室を訪れる。
爆発した温室の跡には、色んな色が散乱している。
割れたガラスが光を反射し、一面が輝いている。
女は、残骸の中をコツコツと歩く。
御曹司は、光の中をコツコツと歩く女の後を音も無く進む。
生暖かい風がしゃがれた声で笑い出す。
女には聞こえない。聞こうとしないから。
「風が強いから、戻りましょう。ここには何も無い。」
と桜色に染まった女が言う。
何も無い?こんなにもあるのに、現に君は桜色なのに。と御曹司は思う。
『ザハザハザハ、当人には分からないのさ。』と風は笑う。
「ここには、爆発した温室があるじゃないか。」
『ザハザハザハ、ここには、爆発した温室があるじゃないかと。』
「爆発した温室には用はないわ」
「あぁ、爆発した温室には用はないさ。でも、僕は君に用がある。」
『ザハザハザハ、ここは、爆発した温室』
「用って、何よ?」
『ザハザハザハ、用って何よ?』
「来てご覧。ここの穴が、爆発したんだよ。」
『ザハザハザハ、ここが爆発した穴なんだ』

プクプク穴には温泉が湧いている
温泉を利用した温室だったのさ。
ほんの化学変化でボンッ。
ボンッボンッドカン!!
プクプクプクプク
だから女を穴に。
だから女を穴に。
『ザハザハザハ、ザハザハザハ、手な具合で生まれんだ。手な具合でな。ザハザハザハ。』
「これで、桜が咲くでしょう」
《これで、みごとに咲くでしょう》



(作:岡田貞子)