この文章はコラムのために少し直しましたが、そもそもは、多摩川にあるart & riverbankで年末に行われた「depositors meeting #9」に出した「blanClass +portfolio 2011」と、CAMP主催のイベント「現在のアート<2011>」(12/23@アサヒ・アートスクエア)でのプレゼン「blanClass 2011アーカイブより」の原稿の〆切が同じ日だったので、2つの用事を1回で済ませようと思って書いた文章です。
blanClassはこれまで毎週土曜日にワンナイトイベント&公開インタビューを2年以上続けてきたが、来年からこのイベントのことを「+night」から「Live Art」と呼び替えることにした。それはblanClassを2年間続けてきて、毎週土曜日に起こる、極めて説明困難な事象を幾分わかりやすくしたいと願ったからである。
2009年にはじめた当初は、多田正美、おととことばこ、中川敏光、白井美穂、村田峰紀、岡田貞子、安野太郎など、アート界隈で、音や言葉、身体を手がかりにパフォーマンスを表現手段にしているアーティストを呼んだ。身近なパフォーマーの発信拠点みたいになれば良いなと、考えていた。それが2ヶ月も経たないうちに、いつの間にかパフォーマンスをしたことがないアーティストにも声をかけはじめ、ワンナイトで完結することであれば、どんなことでも良いからなにかやってくださいとお願いしながら、結果的にいろいろなタイプのアーティストや専門家が続々と登場する場になった。
2年目になると、眞島竜男、沖啓介、伊藤誠、吉川陽一郎、森田浩彰、高橋永二郎、井出賢嗣、藤川直美、杉本智子、山城大督、佐々瞬など、現代美術をバックグラウンドに作品を展開しているアーティストたちにとって、表現の拡張の場として捉えてもらえるようになってきたと思う。
金村修、鷹野隆大、秦雅則、澄毅など写真家の参加も多かった。写真のイベントは展示とトークが中心だが、熱心なお客さんがたくさん集まるのも特徴。12月からは鷹野隆大と秦雅則による2人展&対談、全3回のシリーズもはじまり、広く狭く写真というものが抱えている問題を考察し発信する場へと展開しつつある。
多ジャンルの面からこの1年を振り返ると、劇団「けのび」、劇団「dracom」、演出家・神里雄大、衣裳・コスチュームデザイナー・矢内原充志、グラフィックデザイナー・菊池敦己、映画監督・伊藤丈紘、演出家・ダンサー・池宮中夫など、そのほかユニークな試みとして、美術家・高嶋晋一とダンサー・神村恵のユニット「前後」や、ダンサー・中村達哉と美術家・山本麻世のコラボレーションなどがある。
1年目に引き続き、美大や専門学校で学ぶ現役学生たちの他流試合、「ステューデントナイト」も相変わらず盛りあがった。今年は2回開催したが、本来ならば、それぞれが学んだ専攻や形式に添って、目的地になりうる受け皿を目指して、出会わなかったかもしれない表現がひと時交差する。なかにはその目的地が見当たらなくて苦悩している人もいるかもしれない。あるいは、目的にしている受け皿からははみ出してしまうかもしれない。そこに無理矢理はまろうとすれば、まったく別物になってしまわないとも限らない。
そもそも「アート」が開こうとしているフィールドは、国や民族や宗教や制度や歴史や形式など、無数の価値や常識が縛っている枠からはみだして、この世のすべての問題をぶち込んでも良いのが前提のはずである。にもかかわらず、この国の文化が、成熟してしまったせいか、あるいはおそろしく幼いせいか、形式名やジャンルが増えていくばかりで、それぞれの受け皿がよけいに狭苦しくなってはいまいか?
表現者のほうはといえば、表現の落としどころばかりを探しまわって四苦八苦している。やっとのことで落としどころに収まった表現も、その形だけが前に出て、一番肝心の作品の本体が見えにくくなっている。そうやって削り取られてしまった、さまざまな表現の本体のかけらみたいなものが行き場のないエネルギーみたいにさまよっているように見えるのだ。
そんな憤りから少しでも解放されるためにも、せめてblanClassだけは、狭くても良いから理想通り、どんな問題をどこまでも考えて良い場にしていきたい。
さて2011年は前年までにない変化、挑戦が多かった年。1番大きな挑戦は、海外も含め、全国のアート・イニシアティブなど、200組を超えるチームや団体が招かれた展覧会のようなイベント、BankART Life III「新・港村〜小さな未来都市」へ参加したしたこと。そのイベント内で、毎週土曜日のイベントを9月から2ヶ月間、完全出張した。その間のゲストはそれまでの2年間のblanClassのダイジェストになるよう心掛けた。同日にほかのイベントが最多で7つも重なる日があったりと、運営は決して楽ではなかったが、これを機会に、いろいろな地域に飛び出していきたいという野望も生まれた。
またblanClassのスペースでは手狭で、でき得ない企画も、いくつか試すことができた。1つは、ステューデントナイトなどに出演した23組の最若手のアーティストが、9時間ノンストップで入れ替わり立ち替わり登場した[ヤンゲスト・アーティスト・マラソン]。2つ目は音楽家・多田正美と写真家・鈴木理策のコラボレーション [西浦の田楽]。blanClassで馴染みのパフォーマー中川敏光、柿ハンドルドライブなども加わり、1200年のあいだ毎年繰り広げられる「地能」「はね能」の現代版。3つ目はblanClassでもっとも出演回数の多いパフォーマー、岡田貞子、おととことばこ、高橋永二郎、中川敏光、村田峰紀と私のコラボレーション[Traffic on the table]。私の発表は実に10年ぶり。個人的には今年一番のトピックスだ。
最後になってしまったが、もうひとつ忘れてはならない今年もっとも大きな事件は、当然のことながら、東北の津波と福島の原発事故。blanClassにも、その余波はジワジワと押し寄せてきた。blanClassでは震災の影響で延期したスケジュールは1つあったものの、それも急遽別の企画に差し替えて、結果的に1日も休まずに、ほぼ予定通りのスケジュールをこなした。実は「3.11」翌日が土曜日。その日も通常通りイベントをやった。さすがにお客さんは4名。なかにはリュックを背負ってきた人もあった。次の週の佐々瞬の展覧会と土曜日のイベントから、すぐに「3.11」のことが問題にされた。それ以来、何度となく作品や公開インタビューのなかで「3.11」以降の表現についての話が、今もなお問題になっている。
当分はblanClassのディレクションだけに専念しようと思っていた私が、10年ぶりに作品の発表に踏み切ったのも、想えばこの大津波に原因している。
こばやしはるお