鷹野隆大 × 秦雅則 [写真か?]

 今週の+nightは、全3回シリーズの特別企画!! 鷹野隆大と秦雅則のワンナイト展覧会とトーク,第1夜。企画の鮫島さやかが提案する「問い」をきっかけに、アーティスト、企画者、blanClassの三つ巴で、「写真の未来を」を考えていく。
 鷹野隆大、秦雅則、両氏ともすでにblanClassにお招きしている。鮫島さんから今回の企画の話を聞いて、写真表現とblanClassの役割が別の次元に展開していったら素晴らしいな、と思い、どうせならblanClassとしても、できるだけ積極的にこの企画に関わっていこうと考えた。
 7月24日に竜宮美術旅館でやっていた「発科展 −早稲田大学芸術学校空間映像科 閉科展−」の開場で、初回顔合わせをした。私は失礼なことに、鷹野さんに、展覧会などで「写真を見ることの難解さ」をあれこれしゃべってしまった。
 というのは、絵画や彫刻などをバックグラウンドにした作品を展覧会で臨む体験に慣れてしまうと、ギャラリーなどで写真が展示されていると、「あっ、写真だ」という認識で、撮られている内容に入らずに素通りしてしまうことがよくある。作品のサイズや額縁のデザインなどは覚えているのに、どんな写真だったかを見忘れてしまっているのだ。日常の中でも同じで、テーブルの上に置かれたコップやら灰皿やら、もろもろ雑多なものと同じように「写真だ」というところで認識が止まって、そこに写っている内容まで辿りつかなくても、納得してしまうことがよくある。
 もちろん、そこに「なまめかしいイメージ」を発見してしまうと、たちまちその小さな風景全体が空転するような、ギョットした光景にも立ち会ったことがあるから、「写真」と「イメージ」と「情報」と「意味」などが、1枚の写真のなかに錯綜して共存してしまうスリリングなメディアとしての写真表現の面白みや可能性を信じてもいる。
 それでも展覧会で「写真」を見るのは、壁に貼られた「テキスト」を読むのにも似た労力を要する。かといって、読む必要を排除して、絵画のように明解に示された写真が魅力的だとも思わない。
 デジタル化が進んで、さまざまなメディアで、便利に言語として機能しているのは、やっぱりテキストと写真だ。もともと印刷媒体がメディアの主役だった頃から、テキストと写真は併存して助け合ってきた。そこに動画が追いつけ追い越せというのが現状だろうか? 文字と写真はとても似た特性があることに気がつく。
 絵画や彫刻をバックグラウンドにした表現の多くは、そのプロセス、質、肌理、または見る仕掛けの中に、はじめから時間のズレを持っている。だから読む作業と同時に、日々距離を測るために磨かれた感覚や脳の機能が理解のために総動員してしまう。
 テキストや写真は情報として磨かれたメディアであるせいで、その知覚と認識のあいだに起こるような時間のズレが、なかなか起こりにくくなっているのかもしれない。均質化されてしまった工業製品、工業技術、現在のデジタル技術によって、その時間差はなおさら相殺されていっているように思うが、それだけではなく、扱うものや見るものの脳のステレオタイプが多くの原因なのだろう。
 そこへいくと、鷹野隆大と秦雅則のお2人は、放っておくとペッタンコに情報化されてしまう写真に、知覚と認識のあいだにズレを引き起こす仕掛けを仕込んでいる。見るものは理解しようと、自分たちの既知のものものと混乱しながら、自然とその写真に対峙してしまう。そういうことが、単に切り取られたイメージを読む写真から、経験する写真に複雑化し、写真の中身だけでなく、写真が与えるものと、見るものの脳とのあいだに起こる現象としての写真を生み出しているのだろう。
 というあたりが、写真の可能性であり、未来なのだと思う。そしてそれはすでに、たとえばお2人の仕事によって実践されつつあるのだ。具体的な仕掛けについては、当日、時間が許せば、聞いてみようと思う。


こばやしはるお


今週の+night↓
http://blanclass.com/japanese/


鷹野隆大 × 秦雅則 [写真か?]
昨年末に「写真分離派」を立ち上げ、写真の現状への問いを投げ続ける鷹野隆大と、今年3月に幕を閉じた企画ギャラリー・明るい部屋の運営メンバーの一人で、写真の概念にアンチテーゼを投じる表現を放ち続ける秦雅則。写真の臨界点をさぐり続ける写真家の二人展&トークイベントです。第1回は「自分のための自分の写真」がテーマ。全3回にて写真を全方位的に紐といて行く場を発信していきます。
※ 第2回:2012年3月17日(土) 第3回:2012年6月16 日(土)を予定。


日程:12月17日(土)
展示開始:18:00 トーク開始:19:30
入場料:1,000円
協力:ユミコ チバ アソシエイツ、ツァイト・フォト・サロン
企画:鮫島さやか


鷹野 隆大 Ryudai TAKANO
1963年-福井県生まれ。写真家。1994年から作品を発表し始める。2006年にはセクシュアリティをテーマにした写真集「IN MY ROOM」(蒼穹舎)で第31回木村伊兵衛写真賞を受賞。身体や性といったテーマの他、近年は都市にも興味を向けている。昨年、鈴木理策、松江泰治、倉石信乃、清水穣らと「写真分離派宣言 」を発表。
所属ギャラリー ホームページ
http://www.ycassociates.co.jp
http://www.zeit-foto.com
関連リンク「写真分離派宣言」
http://www.nadiff.com/news/bunriha_gallery.html


秦 雅則 Masanori HATA
1984年福岡県生まれ。写真家。2008年に写真新世紀グランプリを受賞。2009年企画ギャラリー明るい部屋を設立。主な個展に、「シニカル」(明るい部屋・東京・2009)、「ネオカラー」(明るい部屋・東京・2009)、「幼稚な心」(東京都写真美術館・東京
・2009)など、主なグループ展に「ソウルフォト2010」(Coex・ソウル・2010)、「動物的+人間的=」(明るい部屋・東京・2010年)などがある。blanClassでは2010年8日(月)〜13日(土)展覧会[目が見えない]、スライド&トーク[目が見える]をしている。