ZZ実験

 「ZZ」ってなに?
 2010年3月6日(土)の+nightで丸山純子は初のパフォーマンスに挑戦した。タイトルは「ZZFT実験」、2部構成の第1部が「ZZ」だった。
 暗い部屋に丸山純子が座り、作家の周りを取り囲むように、それぞれ「水」、「油」、「石鹸水」が入ったサイズの異なる5つ水槽が置かれている。水槽にはポンプがつながっていてモーター音がウンウン唸っている。いくつかの水槽からは石鹸のバブルが泡を吐き出している。そういう音のなかで丸山が揚げるフレンチフライがシューシューとささやくような音をたてる。正面の壁には流れる滝がプロジェクションされている。甲府のとある橋の上から見下ろしたかたちで撮影された滝は、水が逆さまに下から上に落ちているように見える。滝壺に落ちる水の音のなかで丸山純子は最初は小さく、だんだん激しく叫ぶ。というパフォーマンスだった。
 「ZZ」というタイトルは「ゼロ磁場」や「気場」から着想したのだそうだ。「ゼロ磁場」と聞いて、30年くらい前に流行った、「鉄のボールが逆に転がる坂」とか、「放射能のせいで緑色の物体が通り過ぎる人の腕を掴む」といった、少年誌とかタブロイド紙的なスピリチャルスポットをつらつらと思い出してしまったが、そういうおどろおどろしたのとはちょっと違うらしい。「ゼロ磁場」というのは、特別にからだに良い「気」、「マイナスイオン」が発生しているパワースッポットなのだそうだ。なるほどマイナスイオンだから「滝」だったのか。
 「ゼロ磁場」をネットで調べてみたら長野県伊那市にある「分杭峠」の名前が真っ先に出てきた。

日本最大、最長の巨大断層地帯である中央構造線の真上にあり、2つの地層がぶつかり合っている、という理由から「エネルギーが凝縮しているゼロ磁場であり、世界でも有数のパワースポットである」と称されている。(Wikipedia
 どちらにしても科学的な根拠は解明されていないらしい。なんだかよくわからない。
 「ゼロ磁場」から着想したといっても「ZZ」は丸山純子の造語で、はっきりした言葉の頭文字などではない。彼女の頭のなかにある「ZZ」なる状況というかモヤモヤしたものの呼び名なのである。
 「ZZ」のはじまりは、実験スペース・ムーンハウスでの展覧会、その名も「ZZのはじまり展」(2009)だった。この展覧会のときから大小さまざまなサイズの水槽に入った「水」「油」「石鹸水」が使われている。
 「ZZのはじまり展」にしても、「ZZ」にしても作家の基本姿勢は実験にある。「ZZ=モヤモヤ」、その抽象的な、しかし確かに丸山の頭のなかにあるものを外に示すことが可能かどうか? という実験。その情景を立ち上がらせるために選ばれたのが先にあげた「水」「油」「石鹸水」というわけだ。
 丸山純子の仕事はコンビニ袋の造花で花畑のようにインスタレーションする作品をいくつか見て知っていた。その「無音花」のシリーズを見るかぎり、ものの機能が失われそうな瞬間にほんの少しだけ手を加えて透明感のある風景にしてしまう、という印象を持っていたのだが、これまでの仕事についていくつか質問をしてみると、一貫して頭のなかにある、いわく言い難い情景というか、やはり「モヤモヤ」したものが前提にあって、それを作品に翻訳しているようである。
 これは素朴な感想なのだが、どの作品も、きっと清涼感さえ感じるような風景の有り様をしている。それは「ZZ」にも共通している。それでもまだその「モヤモヤ」の正体がわからない。あまり深く考えるとこちらの頭のなかがモヤモヤしてしまうので、もう少し実験の行方を見守ることにしよう。
 ところで、2部の「FT」は、あからさまに怪しい占い師に扮した丸山純子が紙石鹸とハサミを駆使して、目の前に座った人の人となりをみごとに言い当ててしまうというパフォーマンスだったのだが、その「FT」の意味を聞いてみると、「Fortune Telling」というそのまんまの答えが返ってきて、「ZZ」との落差に思わず作家の顔を2度見してしまった。
 


こばやしはるお