伊東 乾 [壁の上のイゾルデ…〈音の垂直〉をめぐって]

 今週の+nightは伊東乾が3回目の出演!!
 なのだが、伊東は現在日本にいない。なので当日、伊東乾さんはスカイプでの参加、ドイツのご自宅とblanClassをSkypeでつないで行う。ブランクラスには伊東乾プロジェクトの協力者の渡邊イヨさんに来ていただいて、「3.11以降の表現」などを考えつつ、双方向に音楽的な演習、演奏&レクチャーパフォーマンスをしようという試みだ。
 乾さんは現在ドイツの刑務所のなか? 具体的にはどういう仕事なのかわからないが、EUのお仕事でドイツの裁判所や刑務所などの施設を回っている。たぶん終身刑の囚人の扱いについて、外国人の有識者の体験を通したリサーチをしているのではないだろうか? 金曜日の夕刻までは缶詰状態なのだそうだ。先ほどご本人からメールが来たので、金曜の夕刻(こちらは深夜)まで一切連絡がとれないというわけでもなさそうで、これから4日間メールなどで連絡を取りつつ当日の進行をつめていこうということになっている。
 5月の半ばに長い電話をして、今週の打合わせをした。その話しのなかで、彼の後輩が3月26日から3日間、ボランティアのために訪れた東北の被災地の写真に衝撃を受けたと言っていた。建物の屋上にボートが乗っかっている、その状況が、あるべきところにあったはずの価値が転倒している様だという意味のお話だったと思う。
 前回、前々回の+nightで問題にしていた、片耳の世界と両耳の世界を行き来しながら音の力を確認したり、さらに空間や光とともに共感覚していく脳の認知の問題などの延長線で語る「〈音の垂直〉をめぐって」というテーマに加えて、表現者として「3.11」以降の表現を考えざるを得ないことを積極的に考えたいと伊東氏は語る。
 ちなみに、前々回は [一つ目巨人と片耳小僧 - 死角の詩学](2009/12/12)、前回は [〈かぎろひ〉を聴く/余韻を観る -音と光の共感覚-](2010/5/29)と題してレクチャーパフォーマンスが行われた。どちらの回も氏のアクロバティックな論理と体感的な展開で刺激に溢れた時間になった。
 今回はそれに加えて、「スカイプだからこそできる面白い内容にしたい」と張り切っている。


こばやしはるお


今週の+night↓
http://blanclass.com/japanese/


伊東 乾 [壁の上のイゾルデ…〈音の垂直〉をめぐって]


1900年代に入っての録音技術の開発、またとくに1950年代以降のステレオ音響の普及によって、僕らの耳はすっかり「平面化」してしまった…。
響きの上下方向の感覚がメディアの中から奪われてしまったのだ。スピーカーは左右に2つ置いて、決して上下には置かない。19世紀までオペラや典礼で普通だった天上界から降り注ぐ声も地の底からわきあがる響きも僕らとはすっかり縁遠くなってしまった…。
トリスタンとイゾルデ」などヴァーグナーの楽劇を題材に〈音の垂直〉をめぐって実際に演奏しながら考える。


日程:6月11日(土)
開場:18:00 開演:19:30
一般:1,500円/学生:1,300円


伊東 乾 Ken ITO
作曲家・指揮者。1965年1月27日東京都生まれ。演奏・研究アンサンブル・ベルリン ラオムムジ—ク コレギウム芸術監督。