+ART ENGLISH TRAINING

英語で直に考えるきっかけをつくる

 今週の+nightで、スタートから1年が経つ、それを機にというわけでもないのだが、11月から日曜の午后に新しい試みをはじめる。それが「+ART ENGLISH TRAINING – アーティストのためのイングリッシュ講座 全12回」、もうすでにこのサイトでも告知をしている。
 その「+ART ENGLISH TRAINING」のリーフレットに、あえてアズビー・ブラウンのコース概要だけを英文のまま載せた。特に「英語があまり得意ではない」と思っている人に読んでみてほしいと思ったからだ。(ちなみにこのサイトには日本語訳も載せている)。別にハードルを上げたかったわけではなくて、日頃、英語があまり得意でないと考えている人で、それなのに英文のアズビー・ブラウンのコース概要の読解に挑戦した人、そういう人に、この講座に挑戦してほしかったからだ。
 そういう私も英語が得意というわけではない。もともと高校生までの英語の成績は最悪で、高校生のころは友人たちに「英語なんてアメリカに行ってから勉強すればいいんだ」などと、うそぶいていた。本音はと言えば性根がだらしがないだけだったのだが…。そのはったりに言っていた「アメリカ行き」が現実のものとなり、20年前(1989〜1992年)に3年間、アメリカに住んでいたことがある。もちろん行ってからが大変だった。
 最初に訪れたのは、Iowaの片田舎(Dubuque)のカレッジだった。後で移り住んだN.Y.C.のアーティストたちには一様に「お前の人生になにが起こったんだ」と驚かれるぐらいの田舎町だった(Dubuque, Iowa はケビン・コスナー主演の映画「フィールド・オブ・ドリームス(1989)」のロケに使われた場所)。
 そのカレッジのイングリッシュ・コースで基礎的な英語を学んだ。授業の内容はフルタイムで「Literature/Grammar/Writing/Conversation/Vocabulary」の5つの科目で構成されていた。私は日本でずっと英語教育を拒み続けていたので、文字通りゼロからの英語の勉強だった。そんな学生は私のほかには1人もいなかったので、先生たちは私の不安を察してか、随分熱心に英語を教えてくれた。なかでもサンデー・オールセンという先生は週に一度、格安で家庭教師までしてくれた。今考えるとほんの短い時期なのだが、懐かしく思い出される。英語で英語を勉強したことは、結果的には良かったと思う。
 blanClassをはじめた当初から、活動を国内に限らず、世界に発信したいと思っていた。このサイトでも英語ページの必要性は感じていたので、それらしきページは更新し続けているのだが「日本語で考えた文章を英語に翻訳する」という手続きでは、到底そのスピードに耐えられない。そんなわけで、最近あらためて英語の必要性を痛感している。あたり前の話なのだが「直接英語で考えられれば」問題はないはずなのだ。言うは易しなのだが…。
 私たちに限らず、日本の多くのアーティストたちが、相変わらず英語に苦労をしているようだ。アートに関わる人に限らず、日本人の英語力は、なかなかに伸び悩んでいるのが現状らしい。毎週月曜日におこなっているスタッフ会議でも「今自分たちのいる環境でもっとも足りないことはなんだろう?」という問いに、英語力の話題が一番に持ち上がった。さてどこから手をつけたら良いものかと、少しだけリサーチをしてみたが、巷にある英語の教育プログラムにはピンとこなかった。
 Iowaで最初の数ヶ月、基礎英語を学んでいたときの熱は、あっという間に冷め、Iowaの退屈な生活はすぐに苦痛になった。その冬は極寒の雪に埋もれ、鬱屈したまま、さらに数ヶ月を過ごした。マンハッタンに移り住んでから気がついたのだが、話題がARTに絡んでいないと「じゃべりたい」という欲求そのものが失われてしまう自分を発見した。およそ2年続いたマンハッタン生活は、つらく厳しい側面もあった(私がいた1990〜1992年のマンハッタンはニューヨーカーですら、現在でも思い出すと顔をしかめてしまう程、暗くてタイトな街と化していた)。でもそこは腐ってもニューヨーク、ARTに関しては刺激に満ちていた。私の英語力は、ほんの数ヶ月の基礎英語の勉強の成果しかなかったが、それでも好奇心に駆られ、我流でしゃべったアーティストたちとのわずかな会話の経験は宝物になった。
 ビジネス英語を勉強してもつまらない。英語を勉強するにしても、内容がARTに偏っていなければやる気が出ないのだ。そういう人は、私だけではないはず。それならばいっそのこと、アートに関わる人にとって必要な英語のプログラムを「blanClassでやったらいいじゃないか」と考えたわけだ。
 そんな折、「アートの英語」(2004・ギャラリーステーション刊)の著者で翻訳家の佐藤実氏に偶然お会いした。小田原にあるすどう美術館でおこなわれていた「阿部尊美展」を訪れた際、阿部尊美さんに紹介していただいたのだ。
 佐藤氏とは、blanClassにお呼びしてあらためて相談をした。彼とこれまで書いたような内容の話をして、「英語を学ぶこと」、「アートを学ぶこと」、「英語でアート、あるいはアートで英語を学ぶこと」という基本的な姿勢で共感した。さらにいろいろと雑談をするうちに、いくつかのキーワード、たとえば「vocabulary building」などを基礎に据えた「ART ENGLISH TRAINING」という、今回の企画の骨格ともいうべき「アイデア」を得た。
 講師にお迎えした、佐藤実氏には「基礎的かつ実践的なアプローチ」で授業。ネィティブスピーカーでもあるアズビー・ブラウン氏には「英語がアートに果たした役割」を英語で講義(日本語も堪能なので日本語も話すかもしれない)。沖啓介氏には、応用編としてスカイプなどを使った海外のアーティストと英語で会話を、それぞれ計画している(聞くところによると沖氏はかつて英会話の本を書いたことがあるそうだ)。
 初めて本格的に英語を勉強しようという方でも気軽に参加していただけるように、基礎的な講座でありながら、同時に実践的に英語を捉えていこうというプログラムを考えた。とにかく直接英語に触れながら、ベースから最新までのアートの情報にも触れることができるようにし、多様なニーズにアプローチしていきたい。
 今回ははじめての試みということもあり、12回の短い講座だが、今後も実践をしながら本当に機能する講座に、手直しを加えながら、長く続けられるプログラムに育てていきたいと考えている。


こばやしはるお