写真の原点回帰-大久保潤さんの写真|飯沢耕太郎

2011年に開催された大久保潤さんの個展「ちょっと訪ねたカンボジア」を見て衝撃を受けた。彼が知的障害者であることは、あらかじめ聞いていたのだが、そのことを抜きにしても、写真そのものがとてもいきいきとしていて面白かったのだ。潤さんはあらかじめこれを撮ろう、あれを撮ろうと決めているわけではなく、その場にあるものにぱっと飛びかかるようにシャッターを切っている。構図や画面構成にも、どちらかといえば無頓着で、画面が少し傾いたり、手前や奥がボケたりしているものも多い。でも、そういう写真の「完成度」など、どうでもいいと思わせてくれる天真爛漫なパワーがあふれ出ていて、そのエネルギーがまっすぐに伝わってきたのだ。もしかすると彼がやり続けているのは、写真という表現行為の原点回帰なのではないだろうか。発達したメカニズムと高度なテクニックに頼り過ぎて複雑骨折しかけている現代写真を、軽やかにひっくり返してしてしまう可能性が、彼の写真にはあるような気がする。今回 blanClassで開催される「でかける!」展では、彼が日々撮り続けている「恐るべき日常写真」が大量に展示される。ぜひ会場に足を運んで、その魅力あふれる世界に触れていただきたい。



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いいざわこうたろう(写真評論家)