11月以降のblanClass|小林晴夫

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先週末のイベントをもちまして、blanClassのLive Artは長期休業に入ります。
 
10周年記念には、今後のweb運営の方針など具体的なことをお知らせする予定だったのですが、今年の1月に休業を発表してから、10月いっぱいでの休業に向けて準備していくことが、思ったよりも忙しく、ザワザワと過ごしてきたせいで、発表できずじまいになっております。
 
そもそも10年前に、この週末のイベントを思いついたのは、8月の暑い夕方。横浜駅をブラブラしている時、とんでもなく良い思いつきが頭の中に閃いて、すぐにその場で当時のメンバーに電話をしたのですが、その内容というのは「土曜の夜にパフォーマンスを見ながらお酒を飲める場というのはどうだろう?」という、後で振り返ってみると、ビックリするぐらい、なんということのない思いつきでした。
 
でもその時は、本当に疑う余地のないぐらい、とても良いアイデアだと確信をしたのです。というのはそのころの私は今以上にお金がなく、ギリギリの生活費を除けば、財布の中には10円玉と5円玉が数枚な日々…。0円からでもできる「しょぼい起業」というわけでもあったのです。利益を上げることを前提になにかを考えると、アイデアが途中で行き詰まってしまうのに、もうけのすべてを諦めると、どんなことでもできるような、なぜか軽くなるような気持ちになったのを忘れません。
 
なんにもなくて、なににも向いていない場所を手掛かりに、私も歴代のスタッフも「できるだけ持ち出しをしないように」ということだけを心がけ、支払いの順番をひとつでも間違えると、その後がいちいち厳しくなるので、常に頭の中ではパズルゲームを強いられるような、小銭との格闘の日々だったのですが、そのことも含めて、とても面白い日々でした。
 
私はblanClassをアーティストとして、しかし決して作品としてではなく、私以外の人たちが利用できる場として運営してきました。blanClassがblanClassとして、ちゃんと機能するためには、逆説のようですが、アーティストの私は「なにもしない」、それはとても空虚な行いの積み重ねのようで、中身のない箱づくりのようなことでもありました。
 
だからblanClassは初めからずっと「からっぽ」なところだったと思います。
 
中身はここに訪れる人たちひとりひとりが、持ってくるものでした。
 
blanClassにはいろいろな形で関わった人たちがいます。その誰に聞いても、blanClassの印象や、その役割に対する認識は異なっていたように思いますし、事実、時々に、まったく違う役割を担ってきたのだと思います。
 
それを可能にしたのは「自由」でした。どんな制約も許さない「自由」は、現実には、なかなか得られない権利のことかもしれません。またみんなにとって等しい「自由」は、あり得ないものなのかもしれません。だからblanClassにあった「自由」は仮設の「自由」かもしれませんが、それでも実感を伴うかけがえのない「自由」でした。
 
10年が経ち、利益を生まないからこそ可能だった「自由」の仕掛けも、これ以上継続させていくためには、いろいろ足りないものだらけ、これがひとつの限界だった気がしています。
 
「休業」は、残念な決断でもありますが、昨年の今ごろだったか、10周年を迎えるにあたり、なにをしようかという他愛ない会話の中で、うっかり口にした「休業したい」というつぶやきが頭から離れなくなり、次第に大きくなって今日に至ったのですが、その思いつきは「ワンナイトイベント」を閃いたように、とても良いアイデアだと思ったのも事実です。
 
この展開が正しい選択だと信じて、11月以降のblanClassを生きていきます。
 
細々とではありましたが、続けられたのは、すべての出演者たちそれぞれの想像力と時々に参加してくれたみんなのご支援のおかげでした。
 
10年の間本当にありがとうございました。
 
 
こばやしはるお