「増山士郎作品集 2004〜2010」(2010年3月9日 - 28日/現代美術製作所)を観てきた。増山士郎はかつてBゼミ生だった。私はBゼミの助手時代、広報も担当していて、募集要項やBTの広告なんかのデザインを手掛けていた。1998年の秋、印刷屋さんからDTPを勧められ、いよいよBゼミに本格的なデジタル化の波が押し寄せてきた。そのときに助けてくれたのが増山くんだった。彼は〆切ギリギリ状態の私に、たったの2日間でクォークエクスプレスを教えてくれた。
聞くところによると最近の増山くんは、日本一アーティスト・イン・レジデンスを知るカリスマとして、やっぱりたったの2日間で、申請書の書き方を伝授してしまうという。すごい。
そんな増山くんはBゼミ生だったころ、訪れる作家に、必ずといっていいほど「どうやって食べてるんすか?」と質問した。彼が質問を浴びせた作家には、たとえば、蔡國強や川俣正などもいた。
増山士郎は、日常や社会状況の中でごく当たり前に人々が触れていることごとに対して、ちょっとした皮肉や悪意を込めた仕掛けで作品に接してくる人に働きかける。そういう作品をつくり続けている。今回の展覧会には昨年の第1回所沢ビエンナーレ美術展「引込線」で発表された「アーティスト難民」のドキュメント展示もあった。「アーティスト難民」とは一時話題になった「ネットカフェ難民」をもじったタイトルだ。ベルリンを中心に活動を展開してきた増山が、昨年の夏、出稼ぎも兼ねた帰国期間(展覧会期間)、ヤマト運輸の仕分けのバイト(かなりハードな)をしながら、日中10時〜18時自身の展示空間になる小屋の中で豪快に眠っている。その職探しの段階からドキュメントしている。実際に「引込線」でその作品を見た人々は「なんだか悲しかった」と言っていた。半分は作品としてのフィクションもあるのだろうが、提示されたものには嘘はない。あんなに作家として食べていくことを切実な問題として考えていた増山くんですら、いくら活躍しても生活はカツカツなのだ。
「晴夫さんは覚えてないでしょうが、僕はBゼミにいたころ、誰にでも『どうやって食べてるんすか?』って聞いて、周りから引かれてたんす。そのころ確か晴夫さんは結構楽観的なことを言ってたんすよ」と、まだ作品を観ている私の背後から増山くんは話し始めた。
私は忘れるどころか、2時間の道のりをそのことばかり考えながら現代美術製作所にたどり着いたのだ。
「でも察するに晴夫さんもここ数年きつかったんすよね。」恐ろしいことを言う人だ。しかしまぁ図星である。「その通りだけど、僕は相変わらず楽観的だよ」と一応の本音を答えた。人はそう簡単には死なないものだ。
「どうやって食べていくか」が切実な作家増山士郎は「お金より大事なことがある」からアートだったと語ってくれた。私も2年前に、このよく聞く「お金より大事なことがある」という言葉に、あらためて強くリアリティを持ったところだった。でもだからこそ、カツカツでもいいから食べていかなければならないのが現実である。増山くんにしたって、アーティストとしてカツカツにやっていることが、すでに素晴らしいことなのだから。
増山士郎は、シネイドオドネルさんと4月10日に+nightにコラボレーションパフォーマンス「Motherland Lost in Translation」をしてくれる。
http://blanclass.com/_night/archives/37
こばやしはるお